WH-1000XM4

本機は9月4日に発売されたSONYのワイヤレスノイキャンヘッドホンです。最高峰のノイズキャンセリングと言われたWH-1000XM3の後継で最強NCヘッドホンになるか!?と興味を持って購入しました。2ヶ月使っての感想を書いていきます。(慌しくしている間に気づけば更新が5ヶ月位滞っていました・・・)

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概要・外観

バッテリーは30時間(NCオフで38時間)、充電はUSBCで3時間(10分で5時間分)で254gと比較的軽量でバッテリー周りも含めて普段使いがしやすそうです。外見はシリーズを踏襲していて、デザイン上の大きな変化はなさそうです。高級感はさほどでもないですが、安っぽくもなく道具としてちょうどいいです。耳全体を覆うサイズでありながら思ったよりも軽く、長時間の装着でも痛くならないと思われます。

操作は電源と外音コントロールの切り替えが物理キーで、再生コントロールと音量はヘッドホン右側のイヤカップに対して前方が曲送り、後ろが曲戻り、上が音量上げ、下が音量下げの方向にスワイプで行います。音量は一回あたりの動作での変化が小さめで再生停止が2タップなので、誤動作しにくい仕様になっています。少々大げさなアクションになる感じもありますが、使っている限り正確に操作できています。

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音の感想

噂ではXH3は低音がブーミーとか、木綿3も低音が多く個性的な音だったのを思うと第一印象は小綺麗で特徴が見えにくい音かなと思いました。低音は多めでしっかり出ているし、高音もそれなりに刺激が出ているのでバランスとしては低音寄りの弱ドンシャリでしょうか。音はWF-1000XM3から入ると馴染みやすい雰囲気があります。

空間:改めて聞くと音像は中程度の大きさで、音場は奥に抜けるというよりは前方の浅目のところに重なって広がる感じで、音像とその響きをやや客観的に見ているような感覚(音場が広いわけではなく)になります。音像を大きくして没入感をあげようと音量を上げると低音が支配的になったり音が潰れがちになり耳も痛くなるので、中程度のスケール感で聞くのが良いように思います。音場での音の展開自体は左右に広めに広がる自然さがあり、やや作られた立体感や空間感のある木綿3よりも全体的にナチュラルな印象はあります。1音1音の分離感はそれほど高くはなく立体感も控えめの鳴り方をします。そのため鮮度が高いとか爽快感があるというよりも落ち着いた空間を持つように思います。

高音:時々鋭さのある刺激もありつつシャリシャリということはなく、籠りを感じるようなこともなく明瞭です。ただ普段HD700、HD800SやSR325eで聴いている自分にはもう少し高音も中音もキレや刺激があってもいいかなと言う気もしないではないです。使っている間にキレが出てきて乾きが出てきた感じもしますが、一つひとつの音の輪郭を終える感じというより、塊のエッジが立っているというかちょっと上ずり気味な気配もあります。

低音:多めです。低音の主張で気持ち中音が埋もれてしまう感はありますが、重すぎるという印象もありません。外音コントロールのオンオフで若干鳴り方が変わります(オンにすると低音が増える)。当初は輪郭を追える固いタイプというよりはソフトに鳴らす緩めのタイプで、やや芯がなく締まりなく鳴っているようにも思えました。→その後少し締まりがでて硬めの芯のある鳴り方をするようになっています。ごく低音は変わらず面的に鳴らす重さがあり振動がアグレッシブに動き回って包み込むような鳴り方もするのは良し悪しかなとは思いました(音量上げ気味にすると時々鬱陶しくなることがあります)。ただ、電車に乗っている時など、騒音の中にあっては低音は控えめでむしろ中高音がよく聞こえるような印象でしたので、外使いありきのバランスのようです。

総合:全体的な鳴り方自体はドンシャリ傾向に違いはないのですが、鳴らし込んでいると初期のフォーカスの甘さは鳴りを潜め、全体的に輪郭が出て若干シャキっとした印象が出てきました。とはいえ、空間の配置の関係か細かい音ひとつひとつを拾っていこうとすると低音が被ってくるのもありディテールが見えにくく分離感や解像感はそれなりかなと。中高音は小綺麗に丁寧に鳴らしている感じはするし、ジャンルに囚われずにそれなりに聞けると思いますが、この機種なりの鳴り方や主張で引きつけるというよりも、ボーカルを中心とした楽曲を綺麗に聴かせる事による最大公約数を目指して作られた感じがします。

特に合うと感じたジャンルとしては、最近のPOPSやボーカルもののEDMや電子音系、低音の低いところまで使っている曲(電子音系)あたりで、重く広がるバスドラの低音と比較的エッジ感のある高音が噛み合って張りが出るため、このヘッドホンの美味しいポイントが使えているように思います。あるいはゆったりしたチル、アンビエント、あたりのディテールよりも雰囲気で聞かせるのも合っている気がします。一方でジャズやアコギなどの生音は線の細い鳴り方からか音の張りや緊張感や情感が薄く感じられます。ロック、HR、オルタナティブロックはそれなりで、メタル系のスピード感が欲しい曲では重さはあるものの、微妙にノリが良くないというか低音の質感のせいかちょっともたついて感じられます。

BTNCの他機種との比較をすると、木綿3は似たようなドンシャリ傾向でありながらアタックの艶感と空間の分離の良さと立体感が満足感を得られるように思います。個人的にリスニングよりの好みで言うなら木綿3の方が強調感はあるものの音の世界観があってメリハリもあり聞いていて楽しいかなとは思いました。
後発のAir Pods Maxは音のバランス自体低音寄りのフラット調整で違うのもありますが、エッジのソフトさと芯の硬さの塩梅が心地よく出来ていて解像感でも本機を上回っていて上質感があります。

コーデックを思えばLDACでの接続なので優位であるはずで、ディテールの表現や滑らかさはよく聞くとレリーフのような僅かな空間の中で地味に作り込まれているようには感じます。ではあるものの、音場内での各パートの配置が想定されているかのようで、安定感はあるものの意外性が抑えめの真面目な鳴らし方というのでしょうか。結果的に臨場感や生々しさのような表現力が他機種と比べて一段下がって感じられてしまいます。ほか2機種がアタックが若干ソフトでソリッドな鳴り方をするのに対して、本機は繊細でやや線が細い音なのがコーデックの影響なのかはわかりませんが、音質の感じ方は人間の聴覚評価のいい加減さ故かもしれません。いずれにしても、上記2機種はコーデックの質をうまくごまかしているか、内蔵アンプによる調整かドライバの影響が大きいのかもしれません。結局の所自分の中ではXM4は当初の印象よりもいい音だと感じるものの、没入感が低めで少し淡々とした鳴り方という印象は覆らなさそうです。とはいえ、NCつきのBTヘッドホンであることを考えれば、随分と贅沢なことを考えるようになったなぁとふと思います。

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ノイズキャンセリング

本機はこれこそが本分だと思います。電車や街中で使用してみた感想としては、木綿3と比べると全体的に効きが強いです。その一方で低音中音とかなり消えている分なのか、高音のノイズが目立つ感じと言うか、電車に乗っていると常に高音にサーっと音がするような鳴り方が気にならないではないです。このあたり、木綿のように聞きが弱めの機種では本体の遮音性などの上から満遍なく消えるので、トータルでは外音は残っているものの耳が慣れて気にならなくなるので、消せる部分を徹底的に消す本機とはノイキャンに対する考え方の違いのような感じもしました。
ちなみに、外音取り込みに関しては機械っぽさはあまりないもののこもっていて小さく、ないよりマシ程度です。ここはAirPodsMaxが圧倒的でした。

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おわりに

外使い最強のヘッドホンかという勢いで購入しましたが、NCはさすがのできではあるものの、室内リスニング用としてはこれで聞き続けたいと思えるような面白さがなかなか見えず、全面的に期待しすぎたかなと言う感じです。BTヘッドホンも音質を語れる段階まできているとは思いますが、ハイレゾ音源を聞いても印象としては分離感や立体感や滑らかさがHD598あたりの一世代前の2万クラスのヘッドホンのイメージが頭によぎります。言い換えると最新機種でありながらリスニングしていて刺激的というよりも少し懐かしい気分になります。そのあたりSHUREのAONIC50はフラットで原音再現寄りと言う話を聞きますので、各社のBTNCヘッドホンはどこに重きを置いているかが分かりやすく、目的や好みに合わせて選びやすいのではないかなと思いました。

とはいえ、使用目的を思えば本機は強めのNC、軽めの本体にバッテリー持ちの良さ、折り畳み+スイング機構、比較的小型なケースや音漏れの少なさ等、良くできていて、外使い最強の機種に違いないと思います。実際どんな場面でも必要十分を満たすため非常に使いやすく、電車でもよく眠れます。
音もPOPSや電子音を聴くには丁度良く思え(それ以外もそつなく聞けますし)、移動中やながら作業に向いた長時間聞きやすい音に違いはありません。特に強いこだわりがない限り、NCヘッドホンが欲しいという人にはまずお勧めできるヘッドホンです。iPhone を使っている人にとりあえずAirPodsProを勧めるのと似た感覚になります。