世の中のGradoに対するイメージを象徴するような側面もあるSR325ですが、6月半ばにリニューアルされて末尾のアルファベットが変わった「SR325x」が発売されました。ちょうど一年ほど前にSR325eを購入して以来その音に魅了されていましたので、購入前に見たレビューや噂などで音が変わっていることを知りつつ、どのように変わったのか気になって購入したのでレビューしていきます。1ヶ月時点で若干記事を修正しました。
同社の機種は同じ名前でも型番の末尾につくアルファベットによって世代が異なり、それぞれ音の傾向が異なるようです。
仕様としては、ドライバが44㎜、インピーダンスが38Ω、感度が99.8dB/mW、本体重量240g(ケーブル込み360g)周波数特性が20-22,000Hz、のオープン型ヘッドホンです。3.5mmが標準で6.3mmに変換するコネクタが付属します。リケーブルには対応していません。
ラインアップを見ると下位モデルはヘッドバンドにクッションがついたようですが、最上位のSR325xは前作と同様の鉄板をレザーで覆ったもので側圧調整システムは健在です。
外見上はヘッドバンドのステッチが黒→白になってちょっとレトロおしゃれっぽく。また旧型では掃除機のケーブルといわれることもあったラバーの被覆がORBのような固い編み込み被覆に変わりました。細かいところでイメージを変えようとしている感じがします。
オンイヤーでスポンジの質感は同様ですので装着感は相変わらずでお世辞にも良いとは言えません。イヤパッドが薄く(平たく)なったので以前よりも耳に干渉する感じもして、長時間の装着では若干の痛みが生じます。同じような抜けのいい音で付け心地のいいイヤパッドが欲しいですが、この抜けの良さが独特な解放感のある鳴り方につながっています。→その後Geekriaの大サイズのイヤパッドを購入しました。装着感も悪くなく適度に厚みのある音と臨場感のある鳴り方が気持ちよく、本機を買って良かったと思えたというか、日常的に使用したいヘッドホンの一つとなりました。
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音の感想
直差しなどの環境で低音に不安を覚えることのあったSR325eと比べると全体的に低音寄りでマイルドです。
もともと細かい音の聞き分けができたり分離感や解像感が高めというよりは、勢いやニュアンス重視なところがあった機種ですので、そのあたりは変わらない感じはします(滑らかさは向上したように思います)。エッジの立ち方はちょっと丸くなったかなという感じもしますが、固くも柔らかくもない中程度で、立ち上がりが早めのやや乾いた鳴り方をします。他のヘッドホンを使った後などは相変わらず若干の耳を慣らす時間が必要な感覚がありますが、入り込めば世界観に浸れます。聞きこむほど丁寧に慣らしているような印象になります。
高音:刺さることはない反面刺激や主張が薄くなりましたが、不足している感じはしません。
中音(高):ボーカルが聞きやすいです。
中音(低):大きく増えてSR325eを聞いた後で聞くとモヤっと感じます。逆に、ほかのヘッドホンからSR325eに行くと高音に寄りすぎているようにも思えた(それがはまると中毒的な音で気持ちよく価格帯を超えて使いたくなる魔力があった)ので、非常に聞きやすくなっています。
低音:もともとタイトなりに出てはいましたが、中低音が増えたこともあって厚みもあるので豊かになりました。アタック感は開放型なりです。
空間:ハウジングの形状がほぼ変わらないのもありSR325eと空間の使い方は似ています。
どこか浮遊感のあるような臨場感のある鳴り方で、近いところで鳴らしていながら周囲に音が広がっていくのも同様です。
また、イヤパッドが変わったことは音へも若干影響しているようで、SR325xの低音が増えたサウンドはこの薄手のイヤパッドで耳に密着させることも影響しているようで、SR325eのイヤパッドに変更すると低音が若干減って鳴り方が変わります。SR325xで若干音が近づいた感じがしたのもイヤパッドの影響のようで、SR325eのイヤパッドに買えると耳から距離が出る分だけ一回り鳴り方が広がるようです。
また、本当は純正が良いのだろうとは思いつつ、Geekriaの大サイズのイヤパッドに変更すると、SR325xの持つ低音の厚みを残しつつ、距離が多少出ることによって近すぎて音が混在する感じが緩和して、適度な距離感とヌケの良さと臨場感があり、気持ち高音が増えて心地よいバランスになっています。スマホ(Xperia1ii)直差しで気持ちのいい音が鳴るのは予想外でした。勿論アンプを通してもバランスが破綻せずによりスケール感や解像感が上がります。
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他機種との比較やアンプの相性
SR325eとの比較
外見や鳴らし方は似ていますが、バランスは大きく変わりました。歳とともに落ち着いて大人しくなった感じとでも言えば良いのでしょうか。ドライバが変わり若干感度も変わったようで、SR325xの方が大きく音が出ます(これは耳に近づいた影響な気もします)。いずれもインピーダンスが低めですので、直差しでより鳴らしやすくなったというところのようです。
中低音の鳴らし方的にゼンハイザーで例えるならHD599の見晴らしをよくハキハキさせて臨場感を出したような感じでしょうか。SR325xをよりマイルドに聞きやすくするとHD599に近づく気がします。あるいはHD700から高音の刺激を削ったような感じにも似ています。(音場はいずれも異なり、HD700は周辺に球体のステージ感のある鳴り方をしますが)。ロックに向くヘッドホンといえば…で名前の挙がるHD25は密閉型で低音の押し出しとタイトななり方とすっきりしたプレゼンテーションが特徴ですが、比較するとHD25の方がタイトで臨場感や開放感はSR325xの方がありますがSR325eよりも少し両者の距離は縮まった感じはします。
アンプ
ZENDAC→ZENCANのエントリー機の組み合わせでは、SR325eでは高音より過ぎてXBASSを使わないと(使っても)高音より過ぎた感じもありましたが、SR325xではこの組み合わせでも気持ちよく聞けています。何なら3Dも併用して空間に変化をつけて聞いても面白いかなとも思います。
DiabloではNomalモードでSR325xの音量はギャングエラーを抜けるギリギリです。暖かさを感じる鳴らし方で、良く言えばマイルド、言い換えると刺激は少なめで真面目な音がします。このアンプはSR325eでも低音が不足せず、少し硬さのある鮮度の高い音を鳴らすため気持ちがいいです。装着感の硬さや耳の痛ささえなければリスニング用に常用できそうです。
UD505→AT-BHA100で聞くと、空間の臨場感と丁寧な鳴り方が気持ちよく、荒々しさのイメージがついて回るシリーズでありながら、アンプを通すことでの空間の広がりと情報量の多さによるシルキーな心地よさのようなものも出てきて、前の型の刺激を忘れて「これはこういうもの」としてリスニングできます。
同じく真空管のHA-1AMK2への接続ではノイズは激しいものの荒々しさもあるノリや勢いがあります。ただ若干濃すぎる感じもするので、イヤパッドを交換したほうが明瞭さも音のバランスも自分的には丁度いいかなと思います。
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ジャンルの相性
ロック、メタル向きなヘッドホンといえばこれ、というところでのイメージも定着していただけに、大幅な音の変化がジャンルに対してどんな相性なのかは気になるところです。よく聞くバンドや曲で確認しました。
SR325eは緩めのテンポのロックや古い音源でも不思議とノリがよく鳴らすので、高音の役割は大きいなと思った型でした。一方、直差しでは低音が不足がちで、高音寄りのミックスの音源だと聞いていて辛い場面もありました。メタル系で何となく自分の中の音のバランスとスピード感を確認するリファレンス曲になっているOUTRAGEのMegalomania(Life Until Deaf)で聴き比べてみました。低音が重めの鳴り方のスラッシュ・メタルですが、高音よりのヘッドホンだとシャリシャリが勝り、低音よりだと重さや暑苦しさが勝ります。その意味で両者の比較はちょうど分かれるところで、自分的には少しシャリシャリが痛いもののSR325eの方がヘッドバンギングしたくなるノリを感じます。2010年代以降お気に入りのMAN WITH A MISSIONもSR325eの方が小気味良く鳴ります。音の立ち上がりはドライバが変わっても共通ですので音のバランスや中音の鳴らし方が気に入れば依然としてロック、メタルには合っていると思います。
SR325xは全体的には重めな音がなるものの、開放感故かアタック感がそれほど出ないため行儀がよく聞こえます。まだ鳴らし込みが足りないのか若干音が埋もれている感覚もあり、ポップスやロック全般の音の多い音源に対して共通するのは、中低音が増えて豊かに聞こえる分やや音がまとまりになって聞こえるので、このバランスで鳴らすならもう少し音が立体的に鳴らし分けられる分離感というか、フォーカスが合ってほしいかなとも思います。
→その後分離感が出てきたのか耳が慣れたのか、見通しの良い空間と臨場感がありつつ主張しすぎないながら一音一音のエッジや立体感も感じさせ、どのジャンルにも対応できそうな万能な鳴り方に思えています。
余談ですが、ロックやメタル向きのヘッドホンとして最近CD900ST(イヤパッド交換)も意外と悪くない気がしています。1000円ぐらいのイヤパッドに変更してリスニングにも時々使っていましたが、低音の量も出るようになって、もともと持っているシャープな高音とタイトな鳴り方と窮屈ともいえる近い空間もラウド系ロックやメタルの熱量や勢いや速さに案外ハマっているように思います。
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まとめ
SR325e以前は高音の主張が強く環境によってはスカスカだったり、高音がきつかったりもしたものの、それが気持ち良いと感じる人に受けて濃いファンを生み出しました。それを思うと標準状態ではちょっと普通になってしまった感じは否めませんが、依然としてノリの良い気持ちのいい音を鳴らすヘッドホンに違いは有りません。
アンプを選ばずに普段使いできるという意味では丁度良くなったとも言えるし、GRADOに興味があって先入観なく最初に買うのであればSRシリーズの「x」はその世界観に触れるには良いと思います。直差しでも充分鳴らせますし。同価格帯のゼンハイザーのHD600番台やAKGの700番台は最低限でもアンプの準備が必要ですし。
自分はアンプにつないだSR325eが刺激的でその機種を使うことの面白さがあったとは思いますが、癖が強すぎるのと、ふと別の機種をつないだ時に鳴らし方に違和感や限界を感じる(ヘッドホンに耳を慣らしている)ことを思えば、定番モデルを聞きやすいマイルド寄りへの舵取りするのは近年のハイレゾ音源への有線機への期待やトレンドに乗るという意味では必然なのかもしれません。
アンプを使って低音や空間を補う、または脳天直撃の刺激を求めている→SR325e以前
直差しですぐGRADOを聞きたい、重さのある音でガンガン聞きたい→SR325x
因みに、SR325eとイヤパッドに交換して聞いてみると標準のSR325xとSR325eの中間的な鳴り方をするので試しても面白いかもしれません。逆に、SR325eにxのパッドをつけると低音が増して高音が気持ち控えめになって、これはこれで聞きやすくなる感じもします。ただ交換すると本来想定されたチューニングからずれるのもあり、いずれも中高音(2kくらい?)が少し強調される感じがするのが気にならないでもないです。
更に因みに、上でも書きましたがイヤパッドを大サイズのものに交換すると装着感と音の距離感とバランスが自分としては非常に好みになるので、SR325xはこの仕様で使っていこうと思います。標準状態では自分の中で少し評価がモヤモヤしていましたが、これなら文句なく買いと言えます。