HD560S

概要としては、新素材を使ったという38mmドライバー、周波数特性は 6-38000Hz、インピーダンスは120Ωで感度は110dB(1kHz, 1V)、本体重量は240g、価格は2万5千円前後、となっています。付属ケーブルは3mの6.3mmで、3.5mmへの変換コネクタが付属します(短いケーブルは付いてきません)。こういった基本情報を眺めていると、型番的には廉価版のようでもありますが、HD599のあとに出すだけあってハウジングは共通でも諸々刷新されているようです。ヘッドホン側のケーブルのコネクタは500番台共通の4極2.5mmなのでリケーブルに対応します。

ハウジングがHD500番台に共通しているため、装着感も共通していますが、素材が変わった箇所が若干違う印象も与えます。イヤパッドが他の機種と比べて固く感じられ、ヘッドバンドのクッションがHD660Sのように左右に別れたスポンジとなっていることもあり、かけたときの印象が若干側圧が強くなったようにも感じ、少々頭を振っても動かないです。HD599のヘッドバンドは少し硬いと思っていたので、スポンジに変わったことはコストカットのようでもありますが装着感にも良い方向に影響しているように思います。いずれにしても、感じ方には個人差はあると思いますが個人的には長時間つけていても頭に馴染む形だと思います。

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音の感想

ゼンハイザーの普及価格帯のヘッドホンは大抵ピラミッド型のバランスで、抑えめの高音と豊かな中低音のリスニングよりのチューニングが多く、もやっと感じる人もいそうな音と多少誇張的でも立体感のある音場がゼンハイザーらしさかと思っていましたが、それまでの方針から一転して珍しくシャープでくっきりとした音にフラット寄りな周波数特性のバランスを持っているようです。インピーダンスや付属が3mの6.3mmのケーブルのみというところも、据え置きリスニング向けやプロユースやモニター用途も意識している感じのようですかね(ゼンハイザーの宣伝的にはリスニング向けのようで、モニターは600番台の方がその用途のようです)。HD560Sの音のバランスとしては、気持ち中高音が多めにも感じますが高音が刺さる感じはなく、中低音はスッキリしていて適度な押し出し感もあり電子音も気持ちよく聞けるので個人的には悪くないバランスです(最近のPOPSも明瞭に鳴らします)。ただ、低音ジャンキーには確実に不向きですので、低音を補えるアンプを準備しておくと気になった際に対応できると思います。

音の鳴り方自体は立ち上がりが早めの硬めの音で、曇り感もなくソリッドでエッジが立ち気味で、聴き込むと案外と張りもあり、乾いているように思えてMW3の中音のような艶感も感じられます。音場は他のHD500番台と同様の狭くも広くもない中程度の空間で、音像の輪郭がやや強調される分近めに感じるかもしれません。定位はバランス接続やアンプで補えばHD600番台に迫る分離感や立体感もあります。総じて小気味よい出来で、上を見ればキリはないですがスッキリ聞きたいという需要に対しては価格は高くはありません。ただ、K712あたりと比べるともう少し高音に解像感がほしいというか、ちょっとメリハリが強めというか大味な感じもしないではないです。このあたりは鳴らし込みで変わるかもしれませんので追々…。→その後しばらく日常使いで鳴らし込みましたが、当初から印象は変わりませんでした。どこか淡々としつつ乾き目で価格相応だろうとは思いますが、上のランクと比べると少し大雑把さのあるサウンドです。

いくつかのアンプを使って聞いてみましたが、全体的に爽やかで元気のいい音だなと思いました。
個人的に相性が良いと感じた環境は、HD599と同様というか無印ZenDacに安いバランスケーブルでパワーを補ったものが手軽で良いかなと思いますが、もう一声音の広がりや繊細さを求めるならZENDAC→ZENCAN→シングル(XBASSと3D両方つけるのが臨場感が出ます)が良いかなと思いました。ZENDAC→ZENCAN→バランスは、ゲインを一番下げないとギャングエラーに巻き込まれます。
・DA310USBも低音もそれなりに出て適度に繊細さも刺激もある鳴り方で相性は悪くなさそうです。音源によって高音がきつめに鳴ることもありましたが次第に落ち着きました。久しぶりに鳴らすとシンプルな構成で綺麗な音が出るなと思います。このヘッドホンに限らず電源を12V3Aのリニア電源にするととても落ち着きが出て良いです。
・UD-505直はシングルもバランスも丁寧には感じるものの立体感や奥行きが抑えめの若干落ち着いた雰囲気で、個人的には面白さが薄いかなと。
・Diabloへのバランス接続は当初高音がクリップする感覚もあったのですが、その後落ち着いて明快で元気のいい音で聞けています。音量はギリギリですが。シングル接続は低音も厚く全体的に綺麗に明瞭に鳴って何一つ不足はないものの、表現としてはもう一皮むけてほしいというか空間も音も癖がないので、この場合にもZENCANに出力することでシングルでも楽しさが出てきます。
インピーダンスや感度から最低限でもアンプが搭載されている機器、出来ればそれなりのパワーのあるDAPやポタアンや据え置きアンプで鳴らすのが良いと思われます。

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他機種との比較

HD599との比較では、HD599もソリッドさのある鳴り方ではあるものの高音が抑えめで中低音が多いため、豊かに聞こえる分中音が埋もれる印象もあります(分離感が抑えめなのもあって)。基本的な音質にそこまで差はなさそうですが、現代的な面を持ちつつ落ち着いて聞かせるHD599に対して、HD560Sは一段回音がタイトになって分離し、低音も追いやすくなり全体的に音が聞き分けしやすく、結果的に解像感も若干向上して聞こえます。中高音に盛り上がりがあるため若干派手にも聞こえます。とはいえ、この辺は好みで選べる範囲だと思います。高音が多い分人によっては聞き疲れしやすいタイプの音かもしれません。それに、頻繁にセールされて半額付近で買えることを思えば、好みが合えばHD599は十分まだ現役で行けると思います。

音のバランスが似てるなと思ったのは、同時期にAmazonのセールで購入したK712と少し前に購入したAONIC50です。立て続けに似たバランスで似た価格帯のヘッドホンを購入していますが、それぞれメーカーが違うので音の鳴らし方は異なりますが、フラット寄りなチューニングということもあり印象は近いものを持っています。細かく見るとK712のほうが高音は繊細でHD650のような角のないゆったりと広がる余裕のある鳴り方をして、HD560Sの方が遠慮なく高音を押し出してきます。高音の質感はAONIC50とHD560Sはエッジの立ち方が近いものを持っていました。また、モニターの定番のMDR-CD900STと比べると、高音はさすがに900STほどシャープではいないものの質感は結構似ています。空間はCD900STの方が平たく素朴な感じというか、HD560Sの方が空間にゼンハイザー的な立体感があり低音に張りと量感があって沈み込むような表現がある印象です。DT1990と比べると価格帯の違いもありますが、同じ高音が強めに出るモニター系フラットな開放型でもテスラドライバの影響か明らかに階調の滑らかさから来る表現力や解像感に差があります。ただ、音自体の生々しさではなく、たまにハッとする音の配置や立体感のある鳴り方はゼンハイザーの500番台らしさもあるなと思います。

高音量中音量低音量極低音音場感音像感解像感分離感ヌケ感質感ドライバ
HD560S52.532.5B+A-BB+A傾斜
HD5993.533.52BBCCB+傾斜
HD6003332BB-B+BB-並行
HD6503332B+B-B+BB並行
HD660S旧2332B-BBBC-並行
HD660S新332.52BB+B+BB並行
HD660S23343B+A-A-A-B+並行
HD7004343A-AA-A-A-傾斜+
HD800S5332.5AAAAA傾斜+
ゼンハイザーの他のヘッドホンとの比較:相対的なものなので、項目によっては必ずしも良し悪しというわけではなく用途に応じた使い分けができると思います。前半4項目は音のバランスでHD600を基準に3が標準的です。以降の項目ではAは演出的だったりやりすぎも含まれます。

総合
560S:高寄りフラット、硬め、爽やかだが低音も出る
599:中低寄りと弱ドンシャリの間、硬め、メリハリあるがやや埋もれる
600:中低寄りフラット、ソフト、ニュートラル
650:中低寄りフラット、ソフト、リスニングより
660S旧:中低寄り、比較すると自分のは篭もる→いずれリストから消します
660S新:低音少なめフラット、暖かさ抑えめ、音が近く主張強め
660S2:低寄りのフラット?メリハリあるが聞き疲れしない
700:弱ドンシャリ、硬め、中低音ウォーム、高音尖り
800S:高寄りフラット、硬め、音場広めでパキッとした鳴り方

600番台の録音や周波数応答の比較はこちら

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まとめ

最近はロスレスやハイレゾストリーミングも一般的になってきて、家でいい音で聞きたい需要が増えていると思います。DAC・アンプ類も安くて高性能なものが増えていますので、そうした環境と組み合わせるとHD560Sは現代的な音源を明快に気持ちよく聞かせてくれると思います。
現行のゼンハイザーに限定するとスッキリ鳴らすリファレンス的なフラット調整のヘッドホンを求めるとHD600かHD800Sしかありません。HD600は所持していませんがHD650よりも以前の設計のため、現在の需要に合わせた明瞭でフラットな機種が手を出しやすい価格で出ることには意義があったかなと思いますし、新たなスタンダードとしての完成度を持ち合わせた機種だと思いました。

その後日本語レビューも増えてきて、リラックスして聞き疲れしないリスニング向けというようなキーワードが頻繁に見られるのは、TWSや一部の低音過多なBTNC機と比べるとそうなのかなとは思います。HD560Sは流行りのHiFi風味?の高音までくっきり鳴らすタイプですし、現在2万円台でちょっといい有線ヘッドホンを探すならHD560Sは聞いてみて欲しいモデルです。
とはいえ、どちらかといえばフラットから高音寄りなので、低音にこだわりがある場合にはアンプに低音ブーストやEQの機能があると良いと思います。

その後数ヶ月経ちましたが、個人的には軽さと長時間つけていられる装着感もあってPCまわりでの作業時や普段遣いで取り回しがしやすく、気が向いた時には軽くリスニングもできるHD560Sは使用頻度が高く、HD599の場所が置き換わりました。