MOMENTUM True Wireless3

ゼンハイザーの完全ワイヤレスイヤホンのフラッグシップモデルのMOMENTUM True Wireless3(以下MTW3)が2年ぶりに発売されました。自分はAmazon限定のグラファイトカラーを予約し、5月20日の発売日に届きました。MOMEMTUMという名前はどちらかというとカジュアル向けなイメージがあったのですが、ワイヤレス関連ではフラッグシップモデルとして使われていますので、現時点でのゼンハイザーの全部乗せモデルです。

前作MTW2はゼンハイザー初のノイズキャンセル付きのTWSということで注目度は高かったと思います。独特な落ち着きと広がりのある音と音楽に影響を与えないささやかなノイズキャンセルが特徴でした。また、今作までの間にゼンハイザーがSonovaに買収されましたが、外音取り込みやノイズキャンセリングといったテクノロジーはゼンハイザー側にもフィードバックがあったのかは少々気になるところです。

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概要・外観

本体サイズは若干小型化し、形は廉価モデルのCX系に近づいています。ウィークポイントでもあったノイキャンの弱さはアダプティブノイズキャンセリングとハイブリッド型として強化されています。再生時間は7時間、ケース込みで28時間と十分なバッテリー持続に防滴にも対応し隙がなさそうですが、価格が定価で4万近く、実売で36000円程と安くはなく、このくらいになるとヘッドホンが見えてくる価格帯と言えそうです。

前作やヘッドホンのMOMEMTUM Wireless3と同様にファブリックのケースが付属します。Amazon限定のグラファイトカラーは鉛筆の芯のような鈍い光沢を持っていて質感は悪くないです。小型化したことによるのか形によるのか、装着時に少しでもラフにつけようとするとタッチ操作が誤爆するのが気になります。タッチしやすさのために反応範囲や感度を向上するようなことは各社やっていると思いますが、きちんと本体側面を持って嵌めたり外してケースに入れるという手順を踏まないとならないのは良し悪しだなと。

何が問題かというと、初期状態で長押しが音量調整なのですが、つける時や外す時に気を使うだけでなく、一時的に手に持っている時に押しっぱなしになりやすく、最低音量になるならまだ良いのですが、一度最大音量で始まって焦りました。勝手に押される問題は割と頻発して、また爆音で鳴ったらと思うと長押しのコマンドは消しておこうかと思いつつあります。

イヤピースはL、M、S、XSの4種類がついてきて、耳へ装着した際の抜けにくさを増すためのシリコンリングも付属しています。当初はいつも通り標準のMサイズのイヤーピースで試していましたが、一度塞がれるものの接している面がピンポイントな感じで、ふとした時に隙間を感じることが多かったので、ひと回り小さいSサイズに変えると奥まで刺してもきちんと密閉・固定され、NCも効いています。ゼンハイザーのロゴが正位置になるように押し込んでシリコンリングも触れてそうなのでこれでいいのかなと。

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機能とか

・専用アプリ
いつの間にか見た目も含めてアップデートされていましたが、ゼンハイザー系共通の専用アプリ「Smart Control」が使用できます。

3バンドのイコライザー(以下EQ)のほか、ユーザー登録することにより曲や状況によって自動的にEQを変える?ような機能が使えるようです。EQにはプリセットとして、一般的なジャンルが登録されています。そして、それとは別にバス・ブーストや声にフォーカスしたものが選べます。が、バス・ブーストは静かな環境で使うのはあまりおすすめではありません。EQは5バンドあると良かったかなとも思いますが、3バンドでも調整したい方向には持っていけるので実用上は問題ありません。細かい調整はしていませんが、個人的にはざっくりとですが高音を+2、中音を-1、低音を-2ぐらいしたのが少しスッキリ聞こえていい感じです。

MTW2で優秀だったボタンのカスタマイズはMTW3でも継続です。
1タップから3タップまでと長押しの4つのコマンドを左右に同じものを含めて割り振ることができます。

自分は右:1タップ:再生/一時停止、2タップ:曲送り、3タップ:曲戻し、長押し:なし
   左:1タップ:外音取り込み、2タップ:曲送り、3タップ:曲戻し、長押し:なし

にしています。自発的にノイキャンをオフにすることは少ないかなというのと、長押しの暴発避けです。

・接続性、コーデック
接続コーデックはaptX Adaptive対応で、レビューにあたってはDL購入したハイレゾ音源をスマホの標準アプリで再生して聞いています。新宿駅の朝のラッシュでもXperia 1IIで接続していますが、XM3やMTW2以上でXM4並には安定していて、特に気になることはありませんでした。本体のBTの対応やコーデックの対応、機種の相性によっては接続性が良くない場合もあるようです。

本体から少し離れると露骨に音質が下がることがあるので、LDACもそうですが利便性のためしょうがないのかもしれませんが、音質固定できるモードも欲しいと思わないではないです。

・ノイズキャンセル
NCの効きとしては確かにMTW2を超えています。標準的な電車の走行音はおおよそ気にならない程度になります。発売時期によって必要十分の水準も上がっていきますが、現時点での標準的な性能と言えそうです。

ただ、XM4がイヤピース高いレベルでトータルバランスをまとめて来たことと比べると、イヤピースの分もあってちょっと届いていないかなという感じです。大江戸線の一部区間などの激しい音がする場所ではまだ試してませんが、京王線では特に問題がなく、遮音性も考えるとコンプライやSONYのフォーム製をつけるのもアリかもしれません。

・外音取り込み
MTW2の時点で元々聞きやすいタイプの外音取り込みでしたが、鍵束を出した時など高音のジャラついた音に対して破裂音が鳴っていた問題は無くなっているようで、気持ち高音寄り(低音が少なめの軽い音)な感じはしますが全体的に自然になりました。マイクが増えたのもあってどの方向から音がするのかも分かり易いです。音量がもうひと回り大きいとイヤホンの存在感をなくせるとは思うのですが・・・。ただこの点に関しては本体の大きさや形などの限界もあるのだと思いますが、かなり以前のAppleにまだ届いてないかなというところです。ちなみに風切り音は割とはげしく鳴ります。通話品質については使う機会があればいずれ・・・。

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音の感想

まだそれほど聞き込んでいないので1週間程度のほぼファーストインプレッションです。時間の経過とともに追って気づいた点を加筆修正していこうと思います。

第一印象としては音に透明感が出たのと、弾力のある低音だなということです。前作では自分はどうにも気になってEQが手放せませんでしたが、今回は標準のまま使っています。
音のバランスとしては、低音の主張が少し強めで高音はさりげないので、ピラミッド型に近いと言えそうです。極低音のサブベースまでしっかりと量が出ます。そのため、最低音までしっかりと使っている音源の迫力がより出るようになりました。全体的に音に密度感があり、SONYのWF-1000XM4の後に出すだけあってそれを越えようという意思が感じられるサウンドです。低音の多さはTWS全体と言えそうというか、XM4の時にも書きましたが、NCを使って電車内などで使用すると気になりません。なので外使いありきのチューニングというかそういう時にもっと低音が欲しい時のバスブーストかもしれません。室内や静かなで使う場合にはEQを使って調整するのが良さそうです。

高音:高音はそれほど量は多くなく、中高音は滑らかでボーカルも埋もれずに聞けます。
低音:中低音・低音はボリューム感があり、芯がありつつも輪郭はやや丸いので硬いというほどでもなく、少し面的に鳴るような響きもあるので艶っぽさもあります。
空間:狭い感じはしませんが、音量を上げると低音が包み込んでくるのでやや見通しは良くないです。

音を小さめまたはアコースティックな音源ではMTW2を踏襲するような落ち着きや広がりのある音にも感じられますが、音量を上げたり激しめの曲を聴くとぐっと密度がでて低音が増し迫力が出ます。全体的にモヤモヤした印象はなく、キャラクターが思ったよりも変わっている気がします。印象としては、ヘッドホンのMW3の高音質モードを入れた状態にイメージが近いかもしれません(MW3は標準だとかなり低音強めのドンシャリですが、高音質モードを入れると高音も低音も刺激が少しマイルドになります)。

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他機種との比較

機種ソースは24bit96kHzのヒゲダンのEditrialとTraveler、宇多田ヒカルのBADモードで、Xperia 1IIの標準音楽アプリで効果は全て切っています。

MTW2と比較

久しぶりに取り出して起動してみました。管理アプリの更新で一覧にMTW2も表示されますが、実際の設定が反映されていませんでしたので、一度削除して再度登録し直すとファームウェアのアップデートも来ていたので更新しました。アプリを更新するとEQのプリセットは適用していたものだけ残り他が削除されました。MTW2は中音が厚くEQを使ってはいましたが、XM4がでるまで1年近く使い続けていたぐらいですので、音自体は独特なしっとり感があり嫌いではなかったです。接続性とNCに限界があったのが乗り換えの理由でした。

標準状態でMTW3と比較すると、低音の圧はMTW3の方があるようにも思いますが、案外とMTW2も低音は強く、低音の鳴らし方や質自体は似ています。中高音は相変わらず落ち着きとしっとり感があります。何かベールというか霞を感じさせながら、それも個性と思わせると広がりがあります。鳴らし込んでいるからかファームウェアによるのか、高音はいずれも量自体は同じぐらいで控えめです。音が増えてくるとソフトさが増します。MTW3の方が比べると若干メリハリがあり若干だけ温かみが抜けて透明感が出たというのは実際のようですが、角の丸さは同等に思えて、MTW2の方が高音が前に来てMTW3の方がソフトに感じる場合もあります。前作の記事で書いたようなEQを使って中音を下げて高音をやや上げると個人的に耳に馴染む音になります。

IE400と比較

有線との比較は酷かもしれませんが、TWSがどこまできたか知りたかったというか。

低音は量感や基本的な質感が似ているように思います。中音はMTW3のバランスや量の出方にメリハリというか強調が見られるように思います(IE400はイヤモニなので音楽的ニュアンスよりも聞き分けが目的なので優劣ではないです)。空間はMTWの方が左右の広がりも奥行きもじんわり広がっていく感じがします。

比較するとMTW3はMTW2やXM4よりは近づいた気もしないではないですが正直どんぐりの背比べのようというか、まだ音が全体的に滲んで感じられて音の角が丸いというより滑らかさが違いそうで、BTを取り巻く環境を含めてもう少し時間が必要かなと思わせます。接続する機器によるのかもしれませんが。
全体的には有線のIE400の方が低音から高音まで毛並みが揃っているような、音を見渡せる安定感と滑らかさに加えて、モニター機らしくキレや分離感があります。そのあたりリスニング向けのIE300と比較するとどうなのかは気になるところです。

MTW3は現時点のTWS最高峰として、NCや無線の利便性を生かして出先や交通機関のなかで手軽に音楽を楽しむという選択肢としては着実に進化していると思います。

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まとめ

本機はアプリでのタッチのカスタマイズ性もイヤピースの装着の質感も、ケースや本体の大きさも、バッテリー持ちも、自分の環境と個体では全体的に我慢するところが少ないのでそつのない優等生な印象です。音質についてはコーデックや実際の聴感上も高音質なTWSとして売っていけそうな進化で(低音は少し多いですが)、個人的には安心感を持って聞けます。ちょっと大人しいもののXm4よりも良い音だと思うというか、今の視点で見て十分にTWSのメイン機として使える性能は持っていると思います。ただMTW2の霞がかっているものの個性的な包み込むようなしっとりした音の世界観というよりは、柔らかさを持ちながらメリハリがついて若干普通の音になったとも言えます。

とはいえ、一応は比較としてAppleやSONYやBOSEも聞いた上で判断するのが良さそうです。前作のMTW2を愛用していてブランド指名買いであるとか、ヘッドホンのMW3が好きで気軽にもう少しマイルドに聞きたいとか、低音が多少多くても大丈夫というのであれば損はしないと思います。欲を言えばこの音がMTW2の時点で出て欲しかったなというか。

気になるのは、実売価格が36000円ぐらいというのは、目玉となる機能や売りが弱めな割には高いかなということと、CX plusとの差別化が曖昧にも見えることでしょうか。あと誤爆しやすいタッチ。価格については最近国内販売のヘッドホン、イヤホンが軒並み値上げのアナウンスがされている中ではこのぐらいが妥当という判断なのかもしれませんが、コロナの関係での供給不足や不安を含むインフレでは嗜好品自体が高級化してさらに売れずに値上げしてという負のスパイラルに落ちつつあるのかもしれないのは少々気掛かりではあります。