HD660S

何度目の書き換えかわかりませんが、おそらく最終版に近い内容になると思われます(2023.4)。結論としては、自分の持っていたの個体の特徴は旧版あるいは個体差またはロットによるものだと思われます。新パッケージ版のHD660Sは今出回っている周波数応答特性や評価とも印象が合致しました。
購入当時自分はHD650を手放していて、代わりに長らくHD598を使用していました。そこへ、オーディオ熱が上がっていいヘッドホンで聴きたいというのと、HD650の後継ということ、ドライバーを一新したということ、そして世間のレビューも良かったため購入を決めました。ですが、機材を入れ替えるたびに聞いて耳を鳴らして納得してレビューを書き換えていたものの、結局のところ何年使っても「自分の個体は」どこまで行っても篭っていてまともにレビューできているか怪しかったので、購入にあたっては比較試聴してご自身の判断で決めてください、としていました。
その後、2023年2月にHD660S2発売に伴いHD660Sは終売となりました。そのタイミングでというわけではないですが、比較的手頃に新パッケージ版を手に入れましたので、改めて比較をして見たというところです。今まで気になりはするものの同じものを買い直すことに抵抗感がありましたが、我ながら何やってるんだろうと言うか。

HD660S概観

HD600シリーズは元々HD580に起源を持つHD600としてスタートし、鳴り方と周波数特性の癖のなさからモニター用(リファレンス?)として定番化しました。そこにリスニングの心地よさを重視した味付けを加えたHD650は名機と呼ばれました。価格帯以上の重厚感があるとも言われていて、10年以上現役でしたが、2017年にHD660Sという後継機が出たという流れです。

形状としては600系共通で側面が丸々メタルメッシュとなっていて、シンプルで飾り気のないデザインをしています。HD650はガンメタ塗装に光沢感のある表面加工もあり、物としても高級感がありましたが新パッケージでは少し落ち着いています。比べるとHD660Sは塗装がなくなった分チープにも見えますが、質感は悪くありません。

耳全体を余裕を持ってすっぽりと覆うため、それ以下のクラスから買い換えるとやや大きめに感じます(イヤパッド自体は500番台とほぼ同じサイズですが)。側圧が強くがっちりと頭をホールドする感覚があり、この辺りも人を選ぶ要素だったりはします。自分は昔のHD650である程度慣れていたのと時間で解決していましたが、ティッシュ箱を挟ませるとかパワーで解決という方法が伝統的にあるようです。ただ、どちらも気をつけないとティッシュ箱だとイヤパッドが潰れて音が変わったり、パワーで解決は鉄板部分を曲げないと下手すると本体を破損しかねないので注意が必要そうです。

ロットor個体差?と新パッケージ版
ゼンハイザーのヘッドホンでロングランの商品は、時期による仕様の変更が入ります。それが音にも少なからず影響があり、HD650のGEと呼ばれる特定の時期が優れているなどとまことしやかに言われているように、いつの時点で造られたのかによっても評価が変わることがあります。
当のHD660Sに関しては比較的新しい機種であることから、そのような言われ方はされていませんが、他の600シリーズと共に2019年10月に新パッケージ版が発売されています。発売時期によって生産地が異なることに加えて音も違うという話もありました。自分の所持しているものは初期パッケージ(HD650初期にも共通するしっかりした箱で、ダイアフラムには18年12月の印刷がありました)ですので、以下のレビューもそれに準拠していましたが、現行版との比較も見ていきます。いずれにしても個体差の可能性から、印象とは異なるかもしれません。

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の感想

自分の旧版は中音、中低音をマスクするように常にモヤが漂い抜けが良くありません。少しでも抜けさせようと音量を上げると、低音のマスクが濃くなりヘッドルームに余裕がないように中高音がたまにキンキンする感じもあります。自分は普段大きめの音で聞きますが、余計にこの辺りが気になるのかもしれません。かといって音量を下げると非常にマイルドで主張が薄く、総じてAMラジオや昔の機材で聴いているかのような気分になります。
耳を慣らしてから頑張って聞いてみるとやや中低音多め、高音に癖はありますがHD650に準拠したバランスと言えなくはないです。6K付近の高音は刺さることがなく(それどころかモヤっとしていますが)、パワーのあるアンプを通すと全域に渡って多少抜けが良くなり、情報量の多い濃いめの音に包まれる感覚になることもあります。

一方で新版は中音をマスクしていたモヤがなく、きちんと抜け、エッジが立って輪郭がしっかりした現代的な鳴り方をします。HD660Sの周波数応答特性を含めたレビューでは低音が少ないと言われます。そこが自分の旧版を聞いていた身としては違和感を覚えていたところでしたが、新版を手にして納得しました。低音をHD650ぐらい出そうと音量を上げると少し耳障りな高音になるというのが高音に触れるレビューが多いことの実際のようです。

・解像感:明瞭な機種まではいきませんが、音の分離や立体感はそれなりにあります。
・音場:音が近い位置で鳴って周辺に広がっていくような素直な鳴り方をしますが、アンプによりそうです。背景の黒さを感じるような見通しの良さというよりも、頭の周辺にぴったり音が包み込んでくる感じです。

・総合:新パッケージ版が皆この音なのであれば、音自体は最近のゼンハイザーの機種に共通するような輪郭が立ち気味で、並行ドライバーによる素直さもあり、S2の濃さよりも少しスッキリ聞きたいという場合には選択肢としてはアリだと思います。いずれにしても、このクラスのヘッドホンであれば鳴らす環境はそれなりに選んでやる必要はあると思います。

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アンプ、ケーブルの相性

インピーダンスは150Ωで感度も低くないですが、音源や環境の相性が強く出るのか、直差しでは物足りなさを感じる場合があります。このクラスのヘッドホンはアンプがある方が好ましいとは思いますし、アンプだけでなく電源やUSBやヘッドホンケーブルを見直すことである程度改善できそうですが、結局の所好みによるところが大きそうです。押し出しのパワーや空間を補正するアンプを使わないと空間が浅いもごもごした音になりがちです。
とはいえ、環境やエージングで大きくキャラクターが覆る事もないので、合わない場合にはモヤモヤし続ける可能性があるので購入前の試聴は大事です。

HD660Sは標準で4.4mmバランスケーブルがついてくるというのもセールスポイントですが、10万台ぐらいまでの機種や非力な機種でバランスによってパワーを補う場合であれば恩恵がないとは思いませんが、ミドルクラスのよくできた機種やハイエンド一歩手前ぐらいから差は少なくなるように思います。あとはメーカー思想。また、リケーブルはHD600系とHD25系と共通のケーブルが使えます。ゼンハイザーの標準ケーブルは角が丸くマイルドな響きですので、ORB等他社のリケーブル自体の効果は比較的わかりやすいと思います(鳴り方がそれ以前ですが)。

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他のヘッドホンとの比較

高音量中音量低音量極低音音場感音像感解像感分離感ヌケ感質感ドライバ
HD560S52.532.5B+A-BB+A傾斜
HD5993.533.52BBCCB+傾斜
HD6003332BB-B+BB-並行
HD6503332B+B-B+BB並行
HD660S旧2332B-BBBC-並行
HD660S新332.52BB+B+BB並行
HD660S23343B+A-A-A-B+並行
HD7004343A-AA-A-A-傾斜+
HD800S5332.5AAAAA傾斜+
ゼンハイザーの他のヘッドホンとの比較:相対的なものなので、項目によっては必ずしも良し悪しというわけではなく用途に応じた使い分けができると思います。前半4項目は音のバランスでHD600を基準に3が標準的です。以降の項目ではAは演出的だったりやりすぎも含まれます。

総合
560S:高寄りフラット、硬め、爽やかだが低音も出る
599:中低寄りと弱ドンシャリの間、硬め、メリハリあるがやや埋もれる
600:中低寄りフラット、ソフト、ニュートラル
650:中低寄りフラット、ソフト、リスニングより
660S旧:中低寄り、比較すると自分のは篭もる→いずれリストから消します
660S新:低音少なめフラット、暖かさ抑えめ、音が近く主張強め
660S2:低寄りのフラット?メリハリあるが聞き疲れしない
700:弱ドンシャリ、硬め、中低音ウォーム、高音尖り
800S:高寄りフラット、硬め、音場広めでパキッとした鳴り方

600番台の録音や周波数応答の比較はこちら

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兄弟機のHD650との比較では、HD650の方がしっとり(残響感)と角が丸そうでありながら、音の先端にわずかに鋭さのようなポイントがあるため、音が埋もれずに明瞭さも両立しています。一方HD660Sの新パッケージ版の方が音が全体的に耳の穴に向けて押し出されてくる勢いのある感じがあります。全体的に音が硬くソリッドさを持ち乾いて高音も押し付けてくる感じがあり、若干の余裕のなさも思わせないでもないです。
HD650はややレイヤー感がありながら音が広がっていくのに対して、HD660Sは空間全体のつながりや立体感が自然に感じられ、素直さが勝る印象です。代わりに、低音をある程度大きく出そうとボリュームを上げると、音のソリッドさ故か音量を大きめで聴いていると音源や環境によって中高音でピーク感というかクリップ感が出てきます。

下位ランクとの比較では情報量が660Sの方が多く感じられます。加えて、599は小綺麗にまとまった音を出す分どこかよそよそしさもあるため、音への没入感や音の分離感は660の方が高いです。

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 おわりに

自分は旧版購入当初あまりにこもりがひどいので、購入後しばらくは世の中の評価が納得行かないような状況でした。
エージング(耳の慣れ含め)で劇的に変わることはないので、合わないと思えば早めに売りに出して別のヘッドホンに行くのが良いと思います。合わないのを使い続けてもやもやするのも不毛ですし、リスニング目的ならヘッドホンは音を楽しむためのものですので。

一方で、納得のいかない場合に試行錯誤に走るとある程度緩和できる場合もあるので、ある意味学べる事も多かったというか、自分は本機でオーディオ沼に入門したというか、機材を更新したらHD660Sがどれぐらいこもるかを確認する癖がつきました。購入してから入門機やミドルクラスの環境ではまだ確証は持てませんでしたが、沼の底に近づいたぐらいの環境でもまだ篭っているので、自分の結論としては、霞どころではなく濃霧に包まれているような鮮度のかけらもない音を鳴らす上に、すぐに音がクリップするヘッドホンという位置付けです。自分の個体はと一応付け加えますが、そう言って差し支えないと思います。ネットのレビューを見ているとちらほら似たような意見が見られていたことや、購入直後にヨドバシに試聴に行った時も同じ音だったことから、旧版の特定のロットでそのような状況があり、それに対して急遽調整した新パッケージ版に統一したのではと邪推してしまいます。

通常このクラスだとヘッドホンだけでなくアンプへの投資も視野に入りますが安い買い物ではないし、ブランド指名買いするには音の振り幅が大きいので、買う前の試聴は大事です。視聴できる環境にあればAKGのK700番台、ベイヤーのAmiron Home、DT1990、他にもソニー、オーテク、SHURE、GRADOあたりの同価格帯と比較すると機種による個性の違いが見えそうです。何なら無線の方が利便性も音も良く追加投資の必要もありません。あるいはゼンハイザーに最近興味を持って最初の有線の一台なら音で言うならHD560Sが癖がないですが、AmazonのセールのタイミングでHD599SEを狙うのも良いかもしれません。

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余談

イヤパッドを変えると音も大きく変わりますが、自然さを目指すと純正のままが良さそうです。YAXIに変えると低音が太く張りやアタック感が増します。音のバランスは環境にもよりそうですが、耳からドライバまでの距離が離れるのもあって味付けとして悪くないと思えます。またイヤパッドとドライバの間に挟んであるスポンジを外したり別のものに交換しても音に影響します。いずれにしても、自分のHD660Sを聞いているとドライバとイヤパッドとの関係があまり良くないというか、わずかに耳から離すか逆にイヤパッドの抜けを良くするのが良いように感じます。半分冗談ですが、イヤパッドに抜けの良いものをあてがって、こめかみにスポンジをつけて浮かせて鳴らしたりしたこともあります。いずれにしてもおすすめとは言いませんが。 

 
公式サイトhttps://www.sennheiser.co.jp/sen.user.Item/id/1142.html