AKG K712 Pro

3月のAmazonのセールで3年保障モデルが3万円となっていたので、前々から黒とオレンジというデザインで気になっていたので購入していました。価格はその後も平均的に同程度を維持しているようです。因みに自分はAKGは今なお時々使っているHD25−1IIの前にオンイヤーの密閉型のK26Pをしばらく使っていたのですが、それ以来ですので実に15年ぐらいぶりに購入しました。AKGに興味がないわけではないのですが、中々縁がありませんでした。ですので、母体や製造が変わってどのように音が変わったかなどについては語れません。

最初に結論を書いておくと、ヘッドホンとしての性能については抑えるところを抑えているので、開放型がOKで見た目が気になっている場合や初めてちょっと良いヘッドホンを買いたいという場合には、価格もこなれていますので買いと言えます。すでにヘッドホンを複数持っていて癖のないモデルが欲しい場合には良いですが、なんとなくAKG持ってないとか、興味がある程度であれば試聴をお勧めします。

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概要

AKGは元々はオーストリアの音響メーカーで昔からヨーロッパのヘッドホン好きからはゼンハイザーとベイヤーダイナミックと並んで人気がありました。一般的にAKGはクラシック向けだったりモニターより、高音が美しいヘッドホンとして知られています。因みに現在はsamsungに買収されたハーマン・カードンの下のブランドです。

重量:235g、インピーダンス:62Ω、感度:105 dB、の開放型のヘッドホンです。見た目はK700番台に共通したハウジングにMiniXLRによるリケーブルに対応したモデルです。同メーカーのK701はゼンハイザーのHD650と比較して語られることの多かった名機です。同じ700番台のK712は開放型でのモニター用(リファレンス?)として使われる事が多いらしい定番の一つです。

このタイプのヘッドホンは初めて装着しましたが、235gという実際の軽さよりは手が込んだ作りの分若干重みを感じますが、長時間の使用もできると思います。インピーダンスは62Ωとさほどでもないですが、若干鳴らしにくい部類のヘッドホンですので直差しではなく最低限のアンプは必要だと思われます。装着感はベロアのイヤパッドが包み込みますが、直径が大きいのでハウジングを掴んでつけ外ししようとすると微妙に手がいっぱいいっぱいになります。個人差があるところですが。

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音の感想

色々聞いてみましたが、感想としてはあらゆる面でほどほどで、非常にそつがないヘッドホンだなと思いました。言い換えると低音の豊かさやエッジの明瞭さや艶感や弾むような音など、特定の特徴で音を楽しむという使い方というよりは1台ですべてこなすオールマイティさがあります。モニター向けということもあり表現力が強いわけでもなく、リスニング目的で上のランクのヘッドホンと比較するとどうしても器用貧乏に一歩踏み込んでる感じもします。音のミックスやリファレンスとしては必要十分(自分にはリファレンスと言うには少し癖があるように感じましたが)なので、プロユースにも対応するのは納得がいきます。
全体的にフラットよりなバランスで、低音はゼンハイザーの普及機と比べると比較的スッキリしています。K701, 702あたりはさらに低音が控えめということのようです。

音のエッジは若干角が丸く、高音もハイファイ感というよりはそれなりに量が出ていながら煩わしさを感じることはなく滑らかに聞かせます。そのあたり、そつはないものの多少好みは分かれるところかもしれません。定番のMDR-CD900STとの比較では、音の素直な鳴らし方は近いものがありますが、音のバランスとしてはK712の方が低音が多く高音が柔らかく出ます。CD900STは空間もタイトで高音のエッジが立っているので長時間リスニングするには若干息苦しさがあります。そもそもCD900STは録音や粗探し用で役割は若干異なりますが。

K712の出音自体はやや近いところで鳴っている感じもするのですが、響きのせいか音場はゆったりと広がります。ゼンハイザーで無理やり例えるならHD650をHD560Sの周波数特性で鳴らしたような感じで、角の丸さや音の響き方は650に近いものを持っていながら、中低音の豊かさを抑え気味にして少し音をタイトにした感じがあります。誇張なく環境に応じて素直に鳴らす点は好感が持てます。

ただ、中低音はスッキリしていると書きましたが、若干気になる時があります。SR325eやHD560Sなどのスッキリした鳴らし方のヘッドホンを聞いたあとで聞くと、若干中低音に抜けきらない壁のような不透明な層というか音がとどまる感覚があります。空間が曇っているというほどではないのですが最近のJPOPの一部のアーティストでそれが顕著なので、ミックスや録音の癖を掴みやすいというところかもしれません。リケーブルに対応しているので、別のものに代えるとある程度解決はするかもしれません。

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リスニング時のアンプの相性

古いオーディオインターフェースが使えなくなってしまったので、リスニング用のアンプしか手元にないのでモニター用途としての聞き具合はいずれDTM熱がまた上がったときにでも試そうと思います。
本機はインピーダンスは低めですが音量が取り難いのでアンプでの要求ボリュームとしてはK712>HD560S>CD900STの順になります。

リスニングを目的として聞く場合、手持ちではアンプはDA310USBが手軽できれいな音を鳴らすので良いなと思いました。比較的安価な価格帯のアンプではドンシャリよりと呼ばれることもありますが、低音を補いつつ高音は比較的シャープに出るので、ヘッドホンによっては刺さるところが適度に丸さがあるK712ではいい感じに留められて心地良いです。

iFiのZENDACやZENCANも悪くないですが、明快でメリハリ出る反面もう少し豊かに鳴ってほしいかなと。Diabloへの接続ではウォームな響きと明快さのバランスはちょうどよくもありますが音が若干近いことが気にならないではないです。

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まとめ

総じてそつなく出来ているので、モニターチューニングにしてはエッジがやや丸く色々聞こえやすいもののゆったりもしているのでモニター用途だけでなくリスニングにも使えると思います。
個人的にはもう少し中音が抜けてほしいと思いますが、アンプやオーディオ・インターフェース等鳴らす環境さえあれば買って損をすることはない出来と言えます。とはいえ、他のメーカーと比べて抜きん出ているわけでもなく味付けがメーカーによるといった印象なので、やや柔らかくてフラット寄り、突き抜けるような明瞭さやHiFi感よりもしっとりしっかり音を聞き分けたい場合に向いていると思います。音の質感や鳴り方の好みで選べるところというか、3万という価格は割安感があります。(新パッケージのHD650はちょっと割高感)

余談ですが、本サイトの内容的にSennheiser信者のように見えますが、上でも書いているように、実を言うとSennheiserよりもAKGの方を先に買っていたりします。K26Pを買った時にK24PやPortaProも検討していました(最近その頃参照していたサイトを再び見つけてほっこりしました)が、その次期にPX100が倍ぐらいの価格していて、いつかゼンハイザーがほしいと思ったものでした。

3月に購入後ちょいちょい使ってはいたのですが、記事を少しずつ書いていたものの中々レビューを公開する踏ん切りがつかないまま随分が時間が過ぎていました(因みに半年を過ぎた頃にHD600と入れ変わりの形で手放して現在は手元にありません)。デザインは好きなんですけどね。