HD650

HD650は2004年に発売されたゼンハイザーの開放型のヘッドホンで、発売時期的にレビューもされ尽くされた名機です。元々所持していたのですが、ある時期兄に譲って手元にありませんでした。ふと最近の自分のオーディオ熱で思いつき、兄に相談したところ現存していて使っていないということだったので送ってもらいました。
ヘッドバンドのクッションは触ると潰れて消滅してしまいましたが、その後、経年で消えてなくなっていたヘッドバンドはGeekriaのものに、イヤパッドを純正のものを購入して元の姿に戻りました。

自分のHD650は、2008年頃に初めての高級ヘッドホンとして恐る恐るヨドバシ店頭で購入しました。当時はDTMをCD900STで作ってそのまま聞いていたのですが、確認とリスニング用に良いヘッドホンが欲しいと新宿のヨドバシに視聴に行って、装着感が圧倒的にHD595が良くて予算的にもそちらを買う気満々でいたのですが、当時の評価と試聴の結果その場でHD650に決めてしまったという。

10年近くぶりに手にして今所持している環境(UD-505→AT-BTA100→ClearForceバランスor Diablo →ZEN CAN→ClearForceバランス)で聞いてみました。
最初に結論を書くと、非常に良いですHD650。これが今は新品4万を切る価格で見かけたり(新パッケージで少し値上がり傾向ですが)、ほぼ同じ仕様の6xxも3万付近で見かけることもあるというのは破格ではないでしょうか。

音のバランスとしては低音寄りのフラットに近いかなと。空間は中程度に広がり、壁のように感じることもなく、奥に向かってゆったりした独特の音場を持ちます。HD599よりもソフトながら音が固まりにならず空間に立体感やリアリティがあります。
世代的に輪郭がソフトで、高音も低音も若干緩めですが、HD598のようなぼやけかたもなく、各音が明瞭に鳴って主張しており、スネアやハイハットや高音も要所で前に出てくる分離感と音のばらけ方をします。大まかな方向はゼンハイザーの上位機種の傾向に沿っており(というよりも600や650の先に700や800が作られたというか)、その上でシャープでキレのある躍動感のHD700とマイルドで低音寄りで情感のあるHD650の音作りの違いに納得がいきます。

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他機種との比較

HD660Sとの比較ですが、個人の感覚や好みと言ってしまえばそれまでですが、思ったよりも別物に思えました。
具体的には、空間の広さや音の広がり方(残響感)は650の方が広く柔らかいです。HD660Sの方が音が近くスタッカートのような立ち上がりとソリッドさを持ちます。環境や音量への追従性もHD660はピーク感やクリップ感が出て音源によってはキンキンと耳につくことがありますが、650は同条件で音像が大きくなるだけでいなします。自分の持っているのはどちらもアイルランド製の旧パッケージです(HD650は07年製、HD660Sは18年製)。660の方は新パッケージで生産地が変わったとか音が変わったとかいう話もありますが、その辺りは未確認です。

また、音のバランス的には意外ですがHD599が一番近いように感じます。全体的に音を固くして、分離感と空間の滑らかさや生っぽさを下げて素っ気なくしたような違いはありますが。

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おわりに

きちんと鳴らすにはアンプは必須だと思われますが、総じて、名機と呼ばれるだけのヘッドホンだなと再確認しました。今買うとしたらエッジの立ち方や透明感に少し古さというか物足りなさを感じる部分もありますが、個性と言って差し支えなさそうな音の世界観を持ちます。ゆったりとリスニングするには音源もそれほど選ばず、ローファイな録音や音源もそれが味に思えるような印象で心地よく鳴らします。時代や機材が変わっても良いものは良いと思える雰囲気と音に浸らせてくれるヘッドホンです。

特に、自分はノスタルジックなエレピやストリングスやアコースティック多めのしっとりしたポストロックもよく聴くのですが、HD650は決してクリアな音ではないながら、その辺りの仄暗い情感が豊かでHD800Sとは別方向で染み渡ります。雰囲気が合っている音源ではずっとヘッドホンを着けていたい心地よさがあります。真空管との組み合わせも温かみとマイルドさが増して、よりノスタルジー感が漂います。

ただ、最新の音源や高音質の音源をクリアにエッジ感をもって聴こうと思う人にとっては期待を裏切る結果になるかもしれません(ソリッド感やエッジ感が気持ちいい電子音やスピード感や爽快感のあるロック、ポップスなどのジャンルや曲によっては物足りなくなるのでHD700やT1 2ndに変えてしまいます)。勿論上流も含めて音質追求にきりはないと思いますが。この機種の後に様々な機種が発売されたのもあり、全体にベールを纏ったようなエッジがソフトな音(その音には唯一感があります)、というのがHD650の現在の立ち位置です。あるいは、パワーのあるアンプでバランス接続することでも生き生きと充実感のある音で鳴らせるので、HD650のイメージを拡張できて面白いです。また、その辺りの個性をカスタムで解像感や明瞭さを向上させて万能機として使っているいる人もいるようです。

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高音量中音量低音量音場感音像感解像感分離感ヌケ感質感ドライバ
HD560SAB-B-B+A-BBA傾斜
HD599BBA-BBCCB傾斜
HD600BBBBB-BBB-並行
HD650BBBB+B-BBB並行
HD660SB-B+BB-BBBC-並行
HD700A-BB+A-AA-A-A-傾斜+
HD800SABBAAAAA傾斜+
ゼンハイザーの他のヘッドホンとの比較:相対的なものなので、必ずしも良し悪しというわけではなく用途に応じた使い分けができます。Bが標準的で、Aは演出的だったりやりすぎも含まれます。分かりにくいですが高中低がBBBがフラット、ABAはドンシャリとなります。

総合
560S:高寄りフラット、硬め、爽やか
599:中低寄り、硬め、メリハリあるがやや埋もれる
600:中低寄りフラット、ソフト、ニュートラル
650:中低寄りフラット、ソフト、リスニングより
660S:中低寄り、比較すると自分のは篭もる
700:弱ドンシャリ、硬め、中低音ウォーム、高音尖り
800S:高寄りフラット、硬め、音場広めでパキッとした鳴り方

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