HD660S

購入当時自分はHD650を手放していて、代わりに長らくHD598を使用していました。そこへ、オーディオ熱が上がっていいヘッドホンで聴きたいというのと、HD650の後継ということ、ドライバーを一新したということ、そして世間のレビューも良かったため購入を決めました。ですが、機材を入れ替えるたびに聞いて耳を鳴らして納得してレビューを書き換えていたものの、結局のところ何年使っても自分は手持ちのHD660Sがどういうヘッドホンなのかよくわからないです。最初に結論を書いておくと、自分の個体はどこまで行っても篭っていてまともにレビューできているか怪しいので、購入にあたっては比較試聴してご自身の判断で決めてください。

HD660S概観

HD600シリーズは元々HD580に起源を持つモニター用(モニターライク?)のHD600としてスタートし、そこにリスニングの心地よさを重視した味付けを加えたHD650は名機と呼ばれました。価格帯以上の重厚感があるとも言われていて、10年以上現役でしたが、2017年にHD660Sという後継機が出たという流れです。

形状としては600系共通で側面が丸々メタルメッシュとなっていて、シンプルで飾り気のないデザインをしています。HD650はガンメタ塗装に光沢感のある表面加工もあり、物としても高級感がありましたが新パッケージでは少し落ち着いています。比べるとHD660Sは塗装がなくなった分チープにも見えますが、質感は悪くありません。

耳全体を余裕を持ってすっぽりと覆うため、それ以下のクラスから買い換えるとやや大きめに感じます(イヤパッド自体は500番台とほぼ同じサイズですが)。側圧が強くがっちりと頭をホールドする感覚があり、この辺りも人を選ぶ要素だったりはします(ティッシュ箱を挟ませるとかパワーで解決という方法が伝統的にあるようです)。

発売時期によって初期パッケージと現行パッケージに別れ、生産地が異なることに加えて音も違うという話もあります。自分の所持しているものは初期パッケージ(HD650初期にも共通するしっかりした箱で、ダイアフラムには18年12月の印刷がありました)ですので、以下のレビューもそれに準拠していますので、現行版の印象とは異なるかもしれません。個体差もあるかもしれませんが。

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の感想

環境に左右されると思いますが、自分の個体はどうにも籠りが気になって仕方がないのですが、耳を慣らしてから頑張って聞いてみるとやや中低音多め、高音に癖はありますがHD650に準拠したバランスと言えそうです(中高音がたまにキンキンする感じもなくはない)。
6K付近の高音は刺さることがなく(それどころかモヤっとしていますが)、パワーのあるアンプを通すと全域に渡って多少抜けが良くなり、情報量の多い音に包まれる感覚になることもあります。

・解像感:明瞭な機種とは比べるべくもないですが、音の分離や立体感はそれなりにあります。
・音場:音が近い位置で鳴って周辺に広がっていくような素直な鳴り方をしますが、アンプによりそうです。背景の黒さを感じるような見通しの良さというよりも、頭の周辺にぴったり音が包み込んでくる感じです。
・総合:環境やコンディションによっては空間が狭めで曇っているようにも感じられることもあるため、広い音場やヌケの良い爽快感重視の人には違和感があるか相性が良くないかもしれません(これは個体差か世代によるのかはわかりません。)。

とはいえ、上手くリスニング環境と好みが合えば同価格帯の優秀な他の機種に引けを取らないヘッドホンなのだろうなと思います。(おすすめするかと言われれば個体差ガチャか怖いもの見たさ以外おすすめはしません。試聴してくださいとしか言えません)。

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アンプ、ケーブルの相性

インピーダンスは150Ωで感度も低くないですが、音源や環境の相性が強く出るのか、直差しでは物足りなさを感じる場合があります。このクラスのヘッドホンはアンプがある方が好ましいとは思いますし、アンプだけでなく電源やUSBやヘッドホンケーブルを見直すことである程度改善できそうですが、結局の所好みによるところが大きそうです。押し出しのパワーや空間を補正するアンプを使わないと空間が浅いもごもごした音になりがちです。
とはいえ、環境やエージングで大きくキャラクターが覆る事もないので、合わない場合にはモヤモヤし続ける可能性があるので購入前の試聴は大事です。

HD660Sは標準で4.4mmバランスケーブルがついてくるというのもセールスポイントですが、10万台ぐらいまでの機種や非力な機種でバランスによってパワーを補う場合であれば恩恵がないとは思いませんが、ミドルクラスのよくできた機種やハイエンド一歩手前ぐらいから差は少なくなるように思います。あとはメーカー思想。また、リケーブルはHD600系とHD25系と共通のケーブルが使えます。ゼンハイザーの標準ケーブルは角が丸くマイルドな響きですので、ORB等他社のリケーブル自体の効果は比較的わかりやすいと思います(鳴り方がそれ以前ですが)。

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他のヘッドホンとの比較

高音量中音量低音量音場感音像感解像感分離感ヌケ感質感ドライバ
HD560SAB-B-B+A-BBA傾斜
HD599BBA-BBCCB傾斜
HD600BBBBB-BBB-並行
HD650BBBB+B-BBB並行
HD660SB-B+BB-BBBC-並行
HD700A-BB+A-AA-A-A-傾斜+
HD800SABBAAAAA傾斜+
ゼンハイザーの他のヘッドホンとの比較:相対的なものなので、必ずしも良し悪しというわけではなく用途に応じた使い分けができます。Bが標準的で、Aは演出的だったりやりすぎも含まれます。分かりにくいですが高中低がBBBがフラット、ABAはドンシャリとなります。

総合
560S:高寄りフラット、硬め、爽やか
599:中低寄り、硬め、メリハリあるがやや埋もれる
600:中低寄りフラット、ソフト、ニュートラル
650:中低寄りフラット、ソフト、リスニングより
660S:中低寄り、比較すると自分のは篭もる
700:弱ドンシャリ、硬め、中低音ウォーム、高音尖り
800S:高寄りフラット、硬め、音場広めでパキッとした鳴り方

600番台の録音や周波数応答の比較はこちら

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兄弟機のHD650との比較では、HD650の方がしっとり(残響感)と角が丸そうでありながら、音の先端にわずかに鋭さのようなポイントがあるため、音が埋もれずに明瞭さも両立しています。一方HD660の方が音が全体的に押し出されてくる感じというか、全体的に音が硬く音が野太いというかソリッドさを持ち、固く乾いて高音も出てくる感じがします。
HD650はややレイヤー感がありながら音が広がっていくのに対して、HD660Sは空間全体のつながりや立体感が自然に感じられ、素直さが勝る印象です。代わりに、音のソリッドさ故か音源や環境によって中高音でピーク感というかクリップ感が出てきます。
因みに自分の持っているのはどちらもアイルランド製の旧パッケージです(HD650は07年製、HD660Sは18年製)。660の方は新パッケージで生産地が変わったとか音が変わったとかいう話もありますが、その辺りは未確認です。

下位ランクとの比較では情報量が660Sの方が多く感じられます。加えて、599は小綺麗にまとまった音を出す分どこかよそよそしさもあるため、音への没入感や音の分離感は660の方が高いです。ただ、650や599やなどの音の響き方や空間的な演出で心地の良い音作りに対して、自分のHD660Sはどこまでいっても曇りがありました。

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 おわりに

あまりにこもりがひどいので、購入後しばらくは世の中の評価が納得行かないような状況でした。
エージング(耳の慣れ含め)で劇的に変わることはないので、合わないと思えば早めに売りに出して別のヘッドホンに行くのが良いと思います。合わないのを使い続けてもやもやするのも不毛ですし、リスニング目的ならヘッドホンは音を楽しむためのものですので。

一方で、納得のいかない場合に試行錯誤に走るとある程度緩和できる場合もあるので、ある意味学べる事も多かったというか、自分は本機でオーディオ沼に入門したというか、機材を更新したらHD660Sがどれぐらいこもるかを確認する癖がつきました。購入してから入門機やミドルクラスの環境ではまだ確証は持てませんでしたが、沼の底に近づいたぐらいの環境でもまだ篭っているので、自分の結論としては、霞どころではなく濃霧に包まれているような鮮度のかけらもない音を鳴らす上に、すぐに音がクリップするヘッドホンという位置付けです。自分の個体はと一応付け加えますが、そう言って差し支えないと思います。

少なくとも価格相応だったとは全く思えませんが、通常このクラスだとヘッドホンだけでなくアンプへの投資も視野に入りますが安い買い物ではないし、ブランド指名買いするには音の振り幅が大きいので、買う前の試聴は大事です。視聴できる環境にあればAKGのK700番台、ベイヤーのAmiron Home、DT1990、他にもソニー、オーテク、SHURE、GRADOあたりの同価格帯と比較すると機種による個性の違いが見えそうです。何なら無線の方が利便性も音も良く追加投資の必要もありません。あるいはゼンハイザーに最近興味を持って最初の有線の一台ならAmazonのセールのタイミングでHD599SEが13000-15000位まで下がるので狙い目です。

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余談

イヤパッドを変えると音も大きく変わりますが、自然さを目指すと純正のままが良さそうです。YAXIに変えると低音が太く張りやアタック感が増します。音のバランスは環境にもよりそうですが、耳からドライバまでの距離が離れるのもあって味付けとして悪くないと思えます。またイヤパッドとドライバの間に挟んであるスポンジを外したり別のものに交換しても音に影響します。いずれにしても、自分のHD660Sを聞いているとドライバとイヤパッドとの関係があまり良くないというか、わずかに耳から離すか逆にイヤパッドの抜けを良くするのが良いように感じます。半分冗談ですが、イヤパッドに抜けの良いものをあてがって、こめかみにスポンジをつけて浮かせて鳴らしたりしたこともあります。いずれにしてもおすすめとは言いませんが。 

 
公式サイトhttps://www.sennheiser.co.jp/sen.user.Item/id/1142.html